「壁が曲がっている」「元は整備工場」でも諦めない。難あり物件を理想の飲食店に変えた2つの施工事例

施工前の課題

  • 築古・異業種物件特有の「建物の傾き」や「排水設備の不備」など、図面にはない隠れた問題があった
  • 極端に狭い動線や店舗中央の階段など、理想のレイアウトを妨げる物理的な障害があった
  • 予期せぬトラブルや関係者との交渉難航により、短い工期に遅れが出るリスクがあった

実施した取り組みと効果

  • 入念な現地調査で状態を正確に把握し、悪条件を「店舗の個性」として逆手に取り魅力的な店作りを実現した
  • デッドスペースの活用や厨房動線の最適化により、スムーズな接客と店舗運営を可能にした
  • 関係者との密な連携とプロの調整力でトラブルを解決し、「30坪1,500万円」「約1ヵ月での引き渡し」という予算・工期内での開業を成功させた

エムトラスト代表
高橋

16歳で大工の道へ入り、建築・内装業界に従事して20年以上のキャリアを持つ。「母に家をプレゼントしたい」という想いから起業し、現在は年間500件以上の店舗・オフィス施工を手掛ける。
店舗・オフィス開業に役立つノウハウを包み隠さず発信するYouTube「内装工事ちゃんねる」を開設。専門用語を使わない施主目線の解説が、多くの経営者から支持されている。「どうすれば実現できるか」を常に問い続けるのが信条。

—お好み焼きや鉄板焼きといった粉物系のお店を開業したいという相談をいただいているんですが、何か参考になる事例はありますか?

「鉄板焼き屋さん」と、ちょっと珍しい業態ですが「肉割烹」というお店もやりました。


—肉割烹って初めて聞きました。

お肉の創作料理みたいな感じですね。今日は、この2件の飲食店の施工事例を紹介できればと思っています。

どちらの物件も、一見すると「本当にここで飲食店ができるの?」と不安になるような物件でした。しかし、「排水の問題」や「動線の制約」といった課題も、設計の工夫と施工技術で解決し、それぞれの個性を活かした理想の店舗に生まれ変わらせることができました。

最初に紹介したいお店は、「粉者東京」という鉄板焼き屋さんです。ホテルで見かけるような高級感のある鉄板焼き店を、もっと身近に楽しめるお店にする。それがコンセプトでした。
場所は墨田区の錦糸町にあります。広さは17坪ぐらいで、客席は30名ぐらい入れるお店です。

【店舗情報】
・店名:創作鉄板 粉者東京
・所在地:東京都墨田区江東橋3-1-10 横井ビル1F
・業態:鉄板焼き
・席数:32席(カウンター12席、テーブル12席、個室8席)

壁が真っすぐじゃない!築古物件の深刻な問題

この物件、建物がすごく古くて、壁が曲がりまくっていたんです。普通、壁って真っ直ぐ立っているものじゃないですか。でもここは建物自体が傾いていて、壁が倒れているような状態だったんです。

怖い……。建物ごと傾いているということですか?

その通りです。本来、内装の壁は垂直に立てるものです。でも、建物自体が傾いている場合、広いスペースを取ろうとしても、真っ直ぐ立てた壁が上や下のどこかで元の壁にぶつかってしまうんです。だから、建物の傾きを見極めながら、干渉しないギリギリのラインで壁を立てていく必要がありました。

なるほど。つまり、中の壁を真っすぐにしようとすると、そのぶんだけ空間が狭くなるということですね。

そうなんです。築古物件では、図面上では見えない問題が潜んでいることが多いです。だからこそ、事前の現地確認と経験豊富なプロへの相談が重要になります。

壁の傾きをどう克服したか?内装のプロの技術

壁が傾いているとなると、まず最初にやるのが「墨出し」です。図面上のカウンターの位置とか壁の位置とか、全部墨出しをしていくんです。それをやっていくと、どこが何ミリ傾いているかが明確に分かってきます。

【用語解説】
墨出し:工事の基準となる線を床や壁に描く作業のこと。これによって、図面と実際の建物のズレを正確に把握し、施工の精度を高めることができる。

建物の傾きを隠すため、既存の壁の内側に真っすぐな壁を新しく立てる必要がありました。しかし、傾いている建物ギリギリに立てようとすると天井や梁にぶつかってしまうため、干渉しない位置まで内側に下げて壁を作ります。空間自体は少し狭くなってしまいますが、お客様が傾きを一切感じない、垂直で美しい空間を作ることができました。

ほかにも、排水管の勾配が取れていないという問題も発覚しました。排水って、水を流すところから末端の道路の本管に取りつくまで、水が勝手に流れるように勾配を作っているんです。しかし、今回のケースでは建物内の配管の勾配が取れていなかったんです。

また、工期もそんなになくて図面で追っかけていた普通の動線が取れなかったりと、トラブル続きでした。

—工事するまでは分からないものなんですね。

そうです。だからこそ、墨出しをして正確に測定することが重要なんです。

狭い動線を逆手に取った「隠れ家」の演出

図面を見ていると、入ってすぐ右手側にテーブル席が3つあって、左手に収納棚みたいなのがあるんです。

—でも、この扉が開くと人が通れないくらいの狭さじゃないですか?

結構狭いですよ。入口に入って最初に見えるのがカウンターと厨房で、その奥に個室があって、さらにその奥に6人掛けのテーブルが2つあるんですけど、そこに行くまでの動線がめちゃくちゃ狭いんです。建物がそもそも曲がっているので、有効寸法で500ミリ取ろうと思ったところが取れなくて。建物のオーナー様と現地で打ち合わせを重ねました。

【用語解説】
有効寸法:図面上の寸法から壁の厚みや柱などの出っ張りを差し引いた「実際に人が通れる(または物を置ける)現実的な空間のサイズ」のこと。

—全部で何席ですか?

高橋:30席ぐらいです。

—30席!この狭い動線で満席になったら、オペレーションが大変そうですね。

ここはホールに人が立たないんです。カウンター、テーブル席、個室に厨房から提供できるレイアウトにしたので、動線が狭くても問題なく運営できます。さらに、狭い入口は逆手に取って「隠れ家感」の演出に使いました。入口のドアには「ヘラ」の形にくり抜いた小窓を付けて、中が見えそうで見えないような工夫をしています。

—かっこいいアイデアですね!

あとは、入口の高さを1,800ミリぐらいに抑えています。通常より低くすることで、店内に入った瞬間の「開放感」を演出する効果があるんです。

建物オーナーとの交渉に苦労、それでも工期1ヵ月で完成

工期は1ヵ月程度を予定していました。もちろん技術的な修正も大変でしたが、それ以上に苦労したのが関係各所との交渉です。建物のオーナー様に現状を伝えて工事の許可を取ろうとしても、仲介に入っている不動産会社となかなか連絡が取れなくて……。アポイントすら取れず、説明の機会を作るのに相当な労力を使いました。技術力だけでなく、こうした交渉力も含めてなんとか工期に間に合わせた形ですね。

築古物件のリノベーションでは、工事中に予期せぬ設備トラブルが見つかることが多々あります。その際、施工技術だけでなく、建物オーナーや管理会社と粘り強く交渉し、工期内に解決策をまとめる「調整力」も、内装業者選びの重要なポイントです。

次に紹介するお店は、「肉割烹 加賀屋」さんです。お肉を使った創作料理を提供する、客単価1万円を超える高級店です。

場所は千葉県松戸市。南流山駅から少し離れていますが、通り沿いにあって外観も目立つ立地です。30坪ほどの広さで、40名弱が入れるお店になっています。

【店舗情報】
・店名:肉割烹 加賀屋
・所在地:千葉県松戸市横須賀2-20-4
・業態:肉割烹・創作料理
・席数:43席(カウンター7席・テーブル30席・個室6席)

元は車の整備工場!飲食店にできるのか不安だった物件

ここは元々、車屋さんだったんですよ。1階が事務所で、奥がガレージ。本当に普通の車の整備工場でした。

—整備工場を飲食店に?それは相当難しそうですね。

最初、現地を見たときは「ここでできるかな」という不安が正直ありました。しかも、オーナー様は元々15坪の小さなお店を経営されていて、ずっと満席状態だったので「広い店舗に移転したい」というご要望だったんです。

—客単価はどのくらいのお店なんですか?

客単価は1万円を超える高級店です。だからこそ、内装の質が直接お客様の満足度に影響します。「元は整備工場」という雰囲気を残すわけにはいかないんですよね。

床を壊して配管を取り出す、整備工場特有の課題

整備工場の最大の問題は排水です。車の油を流すための配管はあっても、飲食店の厨房排水には全く対応していないんです。厨房の位置を決めながら設計したんですけど、排水の勾配が全く足りなくて……。床を壊して削り、配管を一から引き直すという大がかりな作業が必要でした。

—それは想定外の工事ですね。

整備工場や倉庫など、元々飲食店として作られていない物件は、排水設備が飲食店の基準を満たしていないケースがほとんどです。事前の現地調査で「どこまで配管を引き直す必要があるか」を正確に見積もることが重要です。

真ん中の「邪魔な階段」を切断してL字に変更

—2階への階段が店舗のど真ん中にあるって、動線的にかなり問題ですよね。

めちゃくちゃ邪魔です(笑)。元々は2階の休憩スペースに上がるための真っすぐな階段だったのですが、これがあると通路が狭くなってしまう。そこで、階段を途中で切断して、L字型に変更しました。鉄骨を切って、途中から曲げるという加工をしたんです。

—階段を切っちゃったんですか!?

はい。これによって通路を広く取れるようになりました。さらに、階段の下に空いたスペースを活用して、ワインを飾る棚を作ったんです。「邪魔な構造物」を「お店の顔となるディスプレイ」に変身させました。
階段の位置を変更するには、建物の構造を理解したうえで、安全性を確保しながら施工する必要があります。特に鉄骨を切る作業は、専門的な技術と経験が求められます。

高級感を演出する照明と外観デザイン

—元々整備工場だったところを、どのようにしてここまで高級感のある空間に仕上げたのでしょうか?

30坪という広い空間がのっぺりしないように、天井に凹凸をつけて間接照明を仕込みました。吊り下げ照明と組み合わせることで、立体的な空間を演出しています。

—外観の入口も印象的ですよね。木っぽい素材で凹凸があって。

あれ、実は木じゃないんです。最初は本物の木で作りたかったんですけど、予算と耐久性を考えて、木に似た素材を使いました。凹凸をつけたのは、看板のバックライトを効果的に見せるためです。ただフラットな壁だと、照明の効果が出にくいんですよ。

—あえて凹凸があることで、高級感が増していますね。

通り沿いの物件なので目立たせたかったんです。でも、ゴリゴリに目立たせると安っぽくなっちゃうので、高級感を保ちながら存在感を出すバランスを意識しました。
あとは、トイレまでの通路が長いので、将来的に絵を飾れるギャラリースペースとして設計しました。今はお子さんが描いたワインボトルの絵が飾ってあって、すごく温かみのある空間になっています。

整備工場から高級店へ、30坪1,500万円で実現

ここは、30坪でどのくらいかかったんですか?

1,500万円ほどですね。

—元は整備工場だった物件が、こんなに高級感のあるお店になるんですね。

はい。床の配管工事、階段の切断、ワインセラーの設置、照明計画、すべてを含めてこの金額で実現できました。素材選びや施工の優先順位を明確にすることで、予算内で理想の空間を作ることができるんです。
ただし、「どこにお金をかけるか」を明確にすることが重要です。今回は、ワインセラー、照明、外観デザインに予算を集中させ、その他の部分でコストを抑えました。

—ここまで2つの事例を見てきましたが、難あり物件で成功するために、経営者が押さえておくべきポイントはありますか?

高橋:はい、大きく3つあります。

1.事前に物件の状態を正確に把握する
2.課題を「制約」ではなく「個性」に変える
3.建物オーナーや管理会社との連携を密にする

1つ目は、事前に物件の状態を正確に把握することです。壁の傾き、配管の勾配、設備の老朽化など、図面だけでは分からない問題が潜んでいることがあります。
「粉者東京」の事例でも、工事を始めてから「壁が倒れている」「排水が流れない」といった問題が次々と発覚しました。だからこそ、物件の内見時に内装のプロに同行してもらい、墨出しなどで正確に測定することが重要なんです。

—契約前にプロの目でチェックしてもらうということですね。

そうです。2つ目は、課題を「制約」ではなく「個性」に変えることです。壁が曲がっている、階段が邪魔、元は整備工場。こうした「制約」も、プロの視点で見れば「個性」に変えられます。
「粉者東京」では狭い入口を「隠れ家感」に、「肉割烹 加賀屋」では邪魔な階段を「ワインセラー」に変えました。

—発想の転換ですね。

はい。そして3つ目は、建物オーナーや管理会社との連携を密にすることです。築古物件では、工事中に予期せぬ問題が発生します。
「粉者東京」でも、建物オーナーとの交渉に時間がかかり、技術的な修正以上にこの「調整力」が工期を守る鍵になりました。事前に「どこまで工事ができるか」「誰が費用を負担するか」を明確にしておくことで、トラブルを避けられます。

—この3つは、難あり物件に限らず、すべての店舗開業に共通するポイントですね。

その通りです。そのためには、内装業者選びは最も重要な判断の一つですね。

「壁が曲がっている」「元は整備工場」など、こうした難あり物件でも、プロの技術と発想があれば、理想の店舗に生まれ変わらせることができます。むしろ、難あり物件は競争が少なく、好立地を手頃な家賃で借りられるチャンスでもあります。

もし今、気になる物件があるけれど「ここで本当に大丈夫かな?」と迷っているなら、まずは内装のプロに相談してみてください。プロの視点で見れば、あなたが「難あり」と思っている物件が、実は「宝の山」かもしれません。

本記事の内容は2026年2月時点の情報です。